国産蝶類標本写真館

ベニヒカゲ 

Erebia niphonica

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長野県産♂ 表面
長野県産♂ 裏面
長野県産♀ 表面
長野県産♀ 裏面
北海道産♂ 表面
北海道産♂ 裏面
 
分布:北海道、本州

生態:年1回、7月下旬から8月下旬に現れる。成虫は日当たりが良い草地に生息し、緩やかに飛翔しマルバダケブキ、シシウドなどの花で吸蜜する。

食草:オニノガリヤス、ヒメカンスゲ、ナンブスゲ、ミヤマカンスゲ、タテヤマスゲなどのイネ科、カヤツリグサ科

 北海道では低山地に分布の中心があり、斑紋も異なるため別亜種とされる。本州の分布は1,500m以上の高山地帯。
 高山蝶の一つとされる種。本州では1,500m以上の地域に多いが、この程度の標高の地域は植物の変遷が激しく、数年毎に生息している草地が変わってしまうような分布地も多い。
 大きさ、褐色帯の色、幅、眼状紋の形や数は変異が大きく、多くの亜種に分けられている。
 画像の個体は入笠山の亜種。伐採後にカラマツが植林されてまだ幼木だった場所に多数の個体が飛び回っていた。その場所も数年でカラマツが成長し、生息できなくなったと思う。

 本州のベニヒカゲの斑紋は生息地によって違いがある。これは大陸から移動してきたベニヒカゲが西日本から中部地方の山岳地帯に分布拡大する際に、日本海を通って分布拡大した個体群と、太平洋側を通って分布拡大した個体群が、山岳部の川筋を遡って山に入って現在の分布になったと言う説がある。隣接している山群でもその水系の違いが現在の斑紋の違いのもとになったのだという説がある。
 その説によると日本海側のものは前翅表面の橙色斑が中央のくびれたひょうたん型で、中の黒色紋のうち一番下の一つが小さくなる。太平洋側のものはあまりひょうたん型にならず、黒色紋も小さくならない。なるほど、個体変異は大きいものの、言われてみればその傾向はある。
 近い地域でも、浅間山系は信濃川の日本海ルート、それから直線で50Km程度の八ヶ岳は、富士川の太平洋ルートになるのだろう。両方の個体群が交雑した地域もあるようで、明確な線引きができない地域も結構多い。
 両方のルートとも青森に到達する前に気候が温暖化してしまったために早池峰山を本州の北限として、それより北の青森には分布していない。北海道と本州は津軽海峡を境として、キタベニヒカゲは渡ってこれなかったようだ。
 そんな経緯で日本に侵入してきたベニヒカゲは、いくつもの亜種に分けられている。命名競争の末に付けられたような亜種名も多く実に馬鹿げている。亜種の記載者を見ると、当時の第一線の有名な方の名前が記載者になっている。今の研究も進んだ状況ではつけられないような亜種名も多い。亜種の命名者はどのように思っているのだろうか、今でも「自分が命名したと」、自慢に思っているんだろうか。
 亜種として認められるのは北海道の個体群と本州の個体群の二つぐらいで、無理やり分けるとしてもせいぜい本州の太平洋側の個体群と日本海側の個体群くらいだろう。