国産ハンミョウ標本写真館

オガサワラハンミョウ
Cylindera bonina

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分布:小笠原父島,兄島

体長:10〜13 mm

生態:8〜9月に現れる。比較的乾燥した台地に存在する安定した裸地環境に生息する

 エリザハンミョウの近縁種と思われている。戦前に父島で採集された個体で記載されたが、父島の個体群はモクマオウ、リュウキュウマツ、ランタナ等の外来植物の侵入による裸地環境の減少、グリーンアノール及びオオヒキガエルによる捕食等の影響を受けて絶滅した。現在生息が確認されているのは兄島の一部のみ。
 絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律により、種の保存法の国内希少野生動植物種にオガサワラハンミョウが指定されている。採集や標本の譲渡・売買は禁止されている。 したがって画像を載せられる可能性はほとんどありません。

 この種はどこから来た種だろうか。小笠原は過去にどこの島とも繋がっていない海洋島と言われている。しかし、小笠原にはネブトクワガタなど、他の場所と陸続きでなければ分布しないであろうと思われる種が何種類か分布している。そのような例は日本の島にもいくつか見られ、大東諸島のヒラタクワガタや八丈島のネブトクワガタやノコギリクワガタなどが知られている。これらの種の中ではヒラタクワガタは水に浮くため、ある程度の距離の海を漂って渡ることは可能なように思えるが、比重が大きいノコギリクワガタやネブトクワガタでは不可能としか思えない。
 オガサワラハンミョウはエリザハンミョウと非常に良く似ている。このエリザハンミョウがどこからか持ち込まれたものとは考えられないだろうか。小笠原は案外歴史が古い。有史以前から人が住んでいたようで、遺跡が発見されている島もある。1600年代から日本を始め、アメリカやハワイなどと行き来あった。そんな中で何らかの原因で日本か北米の近縁種が持ち込まれ、運よく繁殖した、なんてことが考えられないだろうか。
 なぜそのように考えるかだが、太古の昔から分布していたならば、もっと違った進化をしていると考えるのが普通だと思う。あまりにも日本のエリザハンミョウと酷似していて、違う進化をしてきた結果がエリザハンミョウと同じような形態になったとは出来すぎだ。
 ちなみにハンミョウの習性から考えれば、海に流され海上に漂う漂流物につかまることがあったとしても、流された海上で長期間生存することは不可能だし、翅があるからといって飛翔したまま長距離を渡ることは、生身の人間が1万メートルの海中に潜るより難しい。
 では海を渡ることができない昆虫がどのように分布を広げたのだろうか。一つは人間が運んでしまったことで、オガサワラハンミョウは人為的な原因で分布を広げた例としか思えない。日本から小笠原まで直線距離で約1,000kmだが、まっすぐに20ノットで進むと1日ちょっとで着いてしまう。5ノットでも4〜5日だ。食物をたくさん積んでいた昔の船ならば、小動物(昆虫)のエサは不自由しないはずだ。1週間程度の生存ならば十分可能だし、根拠も示すことができない太古から生息していたなどいういい加減な論法よりも納得できるだろう。
 もう一つ分布を拡大することができただろう、簡単な方法がある。これははるかな昔、日本かフィリピン、あるいは両方と陸続きだったときに分布を広げたという考え方だ。海底の地形図を見てもらえばわかるが、小笠原諸島は伊豆諸島から続くフィリピン海プレートの淵に沿って海上から出ていて、フィリピン海プレートの淵はマリアナ諸島からパラオ諸島まで繋がっている。このフィリピン海プレートの淵は浅い海底が繋がっている。過去の氷河期には海面は現在より大分低かったことがわかっている。どの程度海面が低かったかよくわかっていないが、九州南東にある海中林の存在などを考えれば今より200m以上低かったと考えていいようだ。すると小笠原諸島は伊豆半島から続く大きな半島の一部となってしまい、多少の切れ目はあるとしてもパラオ諸島まで続く大きな半島になってしまう。氷河期だとしたら温度はかなり低かっただろうが、九州南東でも森林が発達するような温度ならば昆虫類はかなりの種類がいたはずだ。そんな昔の陸続きだったときに渡ってきたと考えれば、海を渡ることができない昆虫が分布していることも納得できる。
 オガサワラハンミョウはエリザハンミョウの近縁種だとしたら、変異の少なさから見て太古の昔から分布していたとはとても思えない。この種は近代に何らかの人為的な原因で分布を広げた種だろうし、オガサワラネブトクワガタや小笠原の固有種は陸続きの時代に渡ってきた種で、隔離された特殊な環境で進化してきたと考えるのが納得良く。南西諸島の固有種もそんな海面が低かった時代に分布を拡大して、そのまま進化してきた種がほとんどだと思う。
 まあ、なんと言っても見た人はいないんだし、証明する方法もそんなにないため言った人の勝ちになってしまいそうな気がするが、太古の昔に思いをはせるなどと言うのもまた乙なものだ。