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発酵の原理

 発酵マットを作る時、マットの作成方法は未発酵のマットに小麦粉などを混ぜて、定期的に攪拌して1月ほどで出来上がりと紹介されている書物やサイトが多い。でも本当にこれでちゃんとした発酵が行われていて、クワガタなどの幼虫にとって有益な状態になっているのだろうか。答えはNOである。こんなやり方では発酵は全く行われていないし、分解も進んでいない。
 ちゃんと発酵させたマットをクワガタの幼虫のエサとして使用すると、菌糸よりも大型になる種類は多い。また、温度も発酵マットのほうが菌糸より適応範囲が広く、管理に気を使うこともない。適応するクワガタの種類も非常に広く、一部の特殊な食性を持っているクワガタ以外は問題なく成長する。クワガタだけでなくカブトムシやコガネムシにも応用可能で、発酵をさらに進めることにより劣化したフレークを好むマルバネクワガタ類やネブトクワガタ類にも適した状態で使用できる。
 発酵マットを作るときに、原理をある程度知っていれば失敗なく良いマットを作ることができる。ここでは発酵の原理と必要な条件をまとめてあります。発酵マットを作る前に目を通していただき、クワガタに合ったマットを作ってエサとして与えてください。内容はできるだけわかりやすく書いてありますが、高校生程度の化学の知識が必要な部分もあります。
発酵は初期の真菌や放線菌による分解、後期になると硝酸菌、セルロース分解菌の働きによりセルロースが分解され蛋白質が分解して生成したアンモニアが硝酸に酸化される。マット作成に必要な過程は主に発酵初期になるため、初期の過程を中心に発酵原理を解説していきます。

1.発酵の原理
 マットに加える有機物は、炭水化物、脂肪及び蛋白質になる。これがマットの中で分解し、生物細胞が作られる過程は次のようになる。
1-1 炭水化物の分解
 炭水化物は酸素と反応して最終的には二酸化炭素と水に分解する。
 
 Cm(H2O)n + m2 → mCO2 + n2
 炭水化物    酸素  二酸化炭素  水

 マット中の酸素が不足して嫌気性の状態になると次の反応のように有機酸が生じてpHが低下する。pHが低下すると反応は遅くなり、pHが5以下になると反応はほとんど停止してしまう。
 
 C6126 → 3CH3COOH
   糖       酢酸

1-2 蛋白質及び脂肪の分解
 蛋白質と脂肪は次のように分解し、二酸化炭素、水及びアンモニアを生じる。

 Cxyzp + a2 → Cuvwq + bCO2 + d2O + eNH3

 ここで発生したアンモニアは水に溶けてNH4OHになり、pHを高める働きをする。pHが弱アルカリ性では反応速度が高くなるが、逆に高すぎても反応速度が遅くなる。しかしpHが高くなると、水に溶けていたアンモニウムイオンが気体のアンモニアになって揮発するため、アンモニアの発生によってpHが10以上に上がることはない。反応式は次の通り。

 NH4 + OH → NH3 + H2

1-3 同化作用
 生物は有機物を取り込んで自分の体を合成して増殖する。このとき好気性生物は酸素を取り込み、水と二酸化炭素を生成する。反応過程は次の通り。

 8(CH2O) + 5O2 → 5CO2 +NH3 +2H2
 炭水化物  酸素 二酸化炭素 アンモニア 水

1-4 異化作用
 有機物が不足する状態で、さらに酸素を供給すると、生物体は次のように自ら分解して二酸化炭素と水を生成する。

 C57NO2 + 5O2 → 5CO2 + NH3 + 2H2
 生物細胞   酸素 二酸化炭素 アンモニア 水

1-5 発酵の生成物
 有機物が分解され最終生成物である物質はどうなっているかというと、フミン酸のような腐植質、微生物とその遺骸が残る。

2.マット内の生物相の変化
 発酵過程ではさまざまな微生物が生息してそれぞれがお互いに絡み合い、複雑な食物網を形成している。有機物を直接分解する一次分解者、これを捕食する二次分解者、さらにその上に三次分解者が介在している。
 一次分解者はバクテリア、真菌及び放線菌であり、有機物の分解過程はこれらの生物により分解されている。二次分解者はコナダニやササラダニ、トビムシなどで、イーストや菌類、カビを摂食する。三次分解者はアリ、ムカデなどの昆虫類になるが、主に二次分解者を捕食する。
 マットの中には最初に細菌類が含まれているが、有機物を加えると細菌類は繁殖し当初の10万倍以上になる。このときに有機物の分解熱によりマット内の温度は60度以上に上昇する。このときに温度に弱い酵母や硝化菌は消えてしまう。
 マットを発酵させる過程で特徴的なのは、通常の微生物が増殖する温度範囲よりかなり高い温度で増殖する好熱菌が主役であることだ。発酵の全期間で優先するのは放線菌で、後期になると硝酸菌、セルロース分解菌やカビの働きが活発になる。

3.有機物の持つ熱量
 発酵マットを作成する際に重要なのは好熱菌を繁殖させ、有機物を分解させることだ。有機物を原料とした発熱量について述べていく。
 好気性発酵は有機物の酸化過程であり、ゆっくりした燃焼反応である。したがって、発生熱量として燃焼熱を応用する。有機物の構成元素のうち最も多い炭素及び水素と酸素の反応式と燃焼熱は次の通り。

 C + O2 = CO2 + 97.4kcal/mol
 H2 + 1/2O2 = H2O + 68.3kcal/mol

物質の燃焼熱はその物質中の元素の燃焼熱を加えればいい。代表的な物質の燃焼熱は次の通り。

物質名 燃焼熱kcal/kg 酸素消費量辺りの発熱量kcal/kg-O2
炭素 C 7,842 2,940
水素 H2 3,416 4,270
硫黄 S 2,218 2,218
窒素 N -1,541 -1,349
蔗糖 3,940 3,509
でんぷん 4,180 3,527
牛脂肪 9,400 3,150

4.栄養素の発熱量
 マットに加える有機物の大部分は炭水化物、蛋白質及び脂肪のいわゆる栄養素である。各種有機物の燃焼熱は次の通り。ばらつきがあるのは測定した物質に含まれるほかの物質の熱量の影響のため。

物質名 発熱量kcal/kg
炭水化物 3,800〜4,200
蛋白質 5,000〜5,800
脂肪 9,100〜9,500

 このようにマット中の3大栄養素の含有率がわかれば発熱量が計算できる。また、マット中の有機物の減少と発生熱量がわかればどの過程にあるのかがわかる。

5.酸素消費量と発熱量
 3で示したとおり、物質による発熱量は元素ごとに大きな違いがある。しかし、有機物についてみると単位酸素消費量辺りの発生熱量は3,150から3,530辺りにまとまっている。累計酸素消費量と発生熱量は3,300kcal/kg-O2の一次直線で表される。

6.最大増殖速度及び死滅係数
 発酵マットを作るときに反応速度や単位時間に発生する熱量を計算するためには、最大増殖速度がわからないと計算できない。マット作成の基本的なファクターだが、あまりデータがない。同様に死滅係数があるがこれも測定値が少ない。両方ともあまりにもばらつきが大きいため使えるデータがないが、本当はこの正確なデータが必要だ。

7.発酵速度に影響を及ぼす因子
 マット作成の際、マットの物理形状や化学組成が多様でありために、反応に影響する因子が多くなる。また、反応が有機物固体表面のわずかな水の中で起こるため、外因条件が少し変化しただけで影響が大きく現れる。マット作成時に影響する因子は次の通り。
7-1 原料由来の因子
 原料となるマットが反応に影響を与える原料由来の因子は、水分量、有機物含有量、C/N比、pH、空隙の大きさ、粒度がある。
7-2 操作によって調整可能な因子
 マット作成時に調整可能な因子は、マットの温度、酸素濃度、種つけ量、水分量、pH、空隙の大きさがある。

8.有機物含有量
 有機物は材料の温度を上げ、余分な水分を蒸発させるための燃料の性格を持っていて、マット作成時には必要な量以上の有機物を含んでいなくてはならない。熱の損失は水分の蒸発潜熱のみとしてマットの温度を40度上昇させるために必要な有機物の濃度は、含水率50%では乾物基準有機物濃度を少なくとも20%、含水率60%では有機物濃度を少なくとも30%、含水率70%では有機物濃度は55%以上にする必要がある。また、有機物濃度を100%にしても原料含水率は79%以上にすることはできない。

9.水分量
 水分量はマット作成時の重要な物質のひとつだ。水分の多いものは異臭を発しやすく、水分が少ないと塵埃が出て扱いにくい。マット作成段階では水分は発酵速度に最も大きな影響を与える因子であり、水分の管理は良質のマット作成には欠かせない。水分は次の形で発酵過程に影響を与える。
9-1 水分量と発酵速度
 微生物は水の中で生活し繁殖する。水分が少なすぎると、生物の増殖速度が遅くなり、限界を超えると増殖が停止する。
9-2 酸素供給量と発酵速度
 好気性反応では酸素の供給が必須である。水分が多すぎるとマット中に空気が通りにくくなり、酸素の供給が制限を受け、マット中が嫌気性になって好気性生物の増殖速度が遅くなる。
9-3 有機物濃度と発酵速度
 水分は蒸発するときに気化熱を奪うため、水分量が多く有機物量が少ないと、蒸発すべき水分が多くなる一方で燃料となる有機物が不足することになる。その結果発酵温度が上昇しなくなり、また、マット中の含水率が大きくなる。
9-4 原料水分と水分管理
 マットの水分量の管理は重要な項目であるが、水分量と発酵速度は密接な関係にあり最適な発酵速度を維持する必要がある。含水率20%以下では発酵はおきず、80%以上でもほとんど発酵しない。発酵に必要な含水率は20%を超えると上昇し始め、60%付近を頂点にしてそれ以上になると低下し始める。最適な水分含水率は60%でこのときに反応速度は最大になる。

10.pH
 pHは原料の組成だけでなく、発酵の進行とともに変化する。また、pHは発酵速度に大きな影響を与えるので、pHが適正になるように管理する必要がある。
 pHと反応速度の関係は、pH5以下ではほとんど反応しなくなり、pHの上昇とともに発酵速度が大きくなる。pHが8から10で最大になるが、高すぎてもバクテリアの活動が阻害されるために反応速度が小さくなる。
 pHは材料が同じでも一定ではなく、発酵の進行とともに変化する。好気的な発酵においては二酸化炭素が発生してこれが水に溶けて炭酸になりpHを下げるように働く。また、発酵が急激に進行すると嫌気性部分を生じて酢酸のような低級脂肪酸が発生する。これがpHを大きく低下させる要因になる。pHを高める要因はアンモニアの発生で、良好な発酵が起きると蛋白質の分解によってアンモニアを生じ、これが水に溶けてアンモニウムイオンになりpHが高くなる。この場合はある程度pHが上昇するとアンモニアがアンモニアガスになって揮発するので、障害になるほどpHが上昇することはない。
 pHは元々の原料によって決まるところが大きい。しかし発酵中のマットを嫌気性の状態にしないように、適切な切り返しを行うことにより低級脂肪酸の発生を防ぎphの低下を防ぐことができる。

11.C/N比
 有機物を分解する生物の活動力は微生物の体構成に必要な養分の量と種類に左右される。養分のうちでも細胞組織である蛋白質を作るために、炭素と窒素とそのC/N比が重要になる。
 発酵速度はC/N比の影響を受け、C/N比が10から30では有機物の分解速度が速やかであり、7から10で有機物分解速度が最大になる。C/N比60以上では分解速度は著しく遅くなる。

12.粒度
 発酵の反応は固体表面に付着した水の中で起こる。したがって粒度を小さくすると材料の面積が大きくなるので、発酵速度が大きくなる。しかしあまり粒度を小さくすると、空気の流通に支障を来たすことになる。発酵マット作成の際は、一次粉砕したマットの大きさで大丈夫だが、微粒子のマットでは十分な空気の流通ができない。

13.酸素濃度
 マット作成の際に不足する要因になる。酸素濃度を高くするのはマット内を好気的雰囲気に保って、反応速度を高く保つためである。大気中の酸素濃度は21%であり、マット内の酸素濃度は発酵の進行とともに低下していく。酸素濃度が2〜6%になると反応速度が半分以下になる。酸素濃度が一定以下になると嫌気性の状態になり有機酸が発生し、発酵は停止する。また、切り替えしが多くなると材料温度が下がって反応速度が低下する。実際の反応では酸素濃度は10%以上を保つようにすると、発酵速度は落ちない。

14.発酵温度
 マット作成の際に劇的に変化するのは温度である。発行マット作成の際の温度上昇は、有害微生物を殺し、ウイルスを不活性化し、発酵速度を速め、水分蒸発を加速させる働きがある。発酵温度はマット作成の際の重要なファクターであり、温度が一定以上で決まった時間続かなければマット作成はうまくいかない。
 化学反応は温度が高いほうが速度が大きくなる。発酵マットでは生物が関与する反応のため、ある温度までは温度の上昇とともに反応速度は大きくなる。しかし、温度を高くしすぎると体内酵素の活性を阻害して反応速度は低下していく。
 発酵速度を最大にする温度範囲は55から60度であり、60度を超えるとマット内の生物活動が急激に低下し、70度を超えると全く発酵しなくなる。

15.容量と保温
 発酵マットの作成は生物による発熱反応により行われている。小さな容量の容器では熱量の散逸が大きく、温度が上昇しにくい。そのため大容量のマット作成に比べると発酵状態が不安定になりやすい。
 マット作成時の発熱量と熱量の散逸量の差は、小さな容器の場合は散逸量が大きく、容器内の温度が上昇しない。マットの発熱量が散逸量を上回る容量は1,000リットル以上になる。それ以下の容量でマットを作成する際は、何らかの保温装置をつけない限り、発酵マットはうまく作成できないことになる。

参考文献  技報堂出版「コンポスト化技術」藤田賢二著 


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