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テナガコガネ産卵マット作成方法 

 テナガコガネを産卵させると、産卵するが孵化率が悪かったり全く孵化しなかったりすることがある。コガネムシやカブトムシは交尾回数が多いほうが孵化率が良くなり、孵化しないといったことが少なくなる。しかし、テナガコガネは雄雌同居で産卵させても全く孵化しなかったり、異常に孵化率が悪かったりすることがある。雄を交換しても孵化率は上がらず、多数産卵したにもかかわらず採れた幼虫は数頭だったということが良くある。
 テナガコガネはまだ飼育している方はあまり多くないが、飼育している方により色々な方法が試されている。売られているカブト用マットで多数幼虫が採れたり、数頭しか採れなかったりと、結果は非常にばらつきがありこれが絶対という方法はまだない。雄雌の状態に問題がなければ考えられる原因は産卵に使ったマットしか考えられない。実際に孵化率が悪かったペアをここで書いた方法で作ったマットを使用して産卵させたところ、その後はほぼ全ての卵が孵化してきた。
 ここでは産卵された卵が無事に孵化し、初令幼虫が食いついて落ちることがないマットの作成方法を紹介していく。なお、ここで言っているテナガコガネはアジアに分布するパリー種群、マックレー種群を対象として紹介しているが、ヒメテナガコガネ属、ドウナガテナガコガネ属にも共通する部分があるので応用が可能だ。

1.成虫の生息環境
 パリー種群の分布を見ると、インド北部から中国、海南島、沖縄とマレー半島に分布している。マレー半島はやや飛び離れた分布地となっているが、大陸側ではほぼ連続した分布となっている。マックレー種群はインド北部からベトナム、中国の泰嶺山地、台湾と中国の泰嶺山地と台湾の分布を除けば連続した分布となっている。いずれの種群も分布の中心はインド北部からタイ、ミャンマー、ラオス付近で、この地域には両方の種群が生息していて二種のテナガコガネが採集できる地域が多い。
 生息環境はともに熱帯地域に分布しているが標高があるため暖帯林の属し、夏季の活動期は晴れた日の日中で25℃程度、湿度が高い地域が多く霧がかかると20℃程度にしかならない。夜間は15℃程度まで気温が下がる。はっきりした冬がある地域が多く、雪はほとんど降らないが霜が降りることもある。日本で近い環境というと夏の温度はもう少し低いが、沖縄本島、奄美群島から九州と四国南部の暖帯林のイメージが近いようだ。
 幼虫は大木の中心部などにたまったフレークを食べているため、原生林に近い環境にしか生息しない。森が残っているように見えても、一度伐採された森や乾燥が進んでいる森では生息していない。成虫の活動期は生息する地域により差があるが、概ね6月から8月が最盛期のようだ。マレー半島に生息しているマレーテナガコガネは、分布する地域に明確な冬がないためほぼ一年中採集されているが個体数が多いのは5月から7月のようだ。
 
2.成虫が産卵する環境
 成虫が産卵する環境はどの種でも共通していて大木の中心部などにたまったフレークに産卵する。テナガコガネが好むフレークはキツツキや各種昆虫などがあけた穴から腐食が始まり、大木の中心部が芯腐れの状態になり木の中心部にフレークがたまった状態を好む。腐食が進むと木の根元まで腐食が進み、木の中心部にたまったフレークが周辺に流出してしまうが、このようになってしまうと生息できなくなる。幼虫が生息している木はシイの仲間が多く、木が生長して大木になるのに長い年月がかかるため森がなくなると生息できなくなってしまう。また、木の中心部が腐食をはじめ、中心部の根元まで完全に腐食するまで数年間しかかからないため、フレークを利用できる期間はそれほど長くない。

3.芯腐れができるまで
 木質部にはセルロースやリグニンなどの栄養素が豊富に含まれている。しかし植物は細胞壁が強固で普通の消化器官ではほとんど消化することができない。
 木の木質部は生きている時は根から吸収した水分を葉に送る働きや、光合成で作られたブドウ糖を細胞に送る働きをしている。木質部が何らかの原因で死んでしまうとそこにバクテリア、真菌及び放線菌が進入し、木質部の細胞を破壊して木質部の栄養分を吸収しながら徐々に進入を拡大していく。木が元気な場合は樹液を出し、生物の進入を防ぎながら細胞を修復してしまう。大木になるほどこの作用が弱くなり、死んでいる部分が拡大していく。また、大木の中心部は若年期に成長した部分で、すでに利用されずに細胞は死んでいる。この部分まで腐食が進むと中心部が一気に腐食していくことになる。
 死んだ植物の細胞はバクテリア、真菌及び放線菌により細胞が破壊されていき、もろくぼろぼろになっていく。その状態が進んでいくと死んでいる中心部はフレーク状になっていく。フレーク状になった木質部は腐食が進んでいくと黒腐れの状態になり、テナガコガネなどの昆虫が利用するようになる。この状態になると、中心部の周辺の木質部もバクテリア、真菌及び放線菌が進入し利用できる部分が広がっていく。また昆虫類の侵入により周囲の木質部がかじられたるすることによってもフレークの部分が広がっていく。
 芯腐れが広がっていくと根元の部分まで腐食が進んでいく。根元まで腐食が進んだ木は、根元の部分から雨などによりフレークが流出し木の中心部がなくなってしまい中空の状態になる。この状態でも中心部の木質部が徐々にバクテリアや菌類に侵食されていき、木質部が少なくなってくる。やがて木は水分を吸い上げることができなくなり枯れてしまう。

4.テナガコガネが産卵するフレークの状態
 木の中心部にできたフレークを利用している昆虫類はテナガコガネをはじめ、いくつかの種が知られている。日本に分布している種で同じように木の中心部にできたフレークを利用している代表的な昆虫はオオチャイロコガネで、この種も原生林に近い環境でないと生息できない。フレーク中からは他にもコガネムシの幼虫やカブトムシなども見つかることがあり、南西諸島では同じようにできたフレーク中にマルバネクワガタやネブトクワガタも生息している。
 テナガコガネが好むフレークは木質部が一次分解者であるバクテリア、真菌及び放線菌に分解され、二次分解者のコナダニやササラダニ、トビムシなどが、イーストや菌類、カビを摂食し、三次分解者の肉食性のダニ類や昆虫類が二次分解者を捕食する、このように安定しているフレークに好んで産卵する。
 この状態のフレークは二次分解者が菌類やカビを食べるため、菌糸は伸長しないしカビが生えてくることもない。栄養分はテナガコガネにとって利用しやすい状態になっていて、微生物も豊富に含まれている。
 テナガコガネが好むフレークはこのように安定した状態のフレークで、一回以上他の生物が利用して分解されたフレークに好んで産卵していることになる。もっとわかりやすく言うと、テナガコガネの幼虫にはセルロースを分解、消化する能力が無いか、低いため、他の生物が利用した食べかすを再利用している事になる。

5.テナガコガネ産卵用マットの作成方法
 長々と説明をしてきたが、ここからが本題だ。今まで説明してきたようにテナガコガネが好んで産卵するマットは、一度以上他の生物が利用して分解がかなり進んで黒くなり、マットの中に色々な微生物が生息していて安定した状態のマットに好んで産卵する。この状態のマットを作ることができれば産卵数は多いし孵化率が悪いといったこともない。マットの作成に少し時間がかかるため、産卵に使用するマットを作成する場合は、あらかじめ用意しておく必要がある。では本題に入ろう。
 用意するものはクワガタに使用した発酵マットや菌糸瓶の食べかすだ。カブト用のマットを使う場合は腐葉土が入っていない広葉樹のフレークから作られているマットを用意する。カブト用マットから作成する場合は、カブト用マットだけではうまく作成できないため、クワガタの食べたマットを半分以上混ぜる必要がある。クワガタの飼育をしていないとこのマットを作成するのは難しいかもしれない。
 マットはできれば50リットルほど用意するが、食べたクワガタの種類はノコギリ、ミヤマ、マルバネ、ネブト系の根食い、土系マットを主なエサとしているクワガタ以外の種が良く、できればオオクワガタ、ヒラタクワガタなどの大型ドルクス系が一番成績が良かった。いっぺんに集められなければ少しずつ集めてもかまわない。クワガタのマット交換のときに交換したマットを衣装ケースなどに集めておく。この時にコバエなどが湧いたマットでもかまわないので、そのまま他のマットと一緒に衣装ケースに入れてしまう。クワガタのマットは菌糸瓶と発酵マットが主に使われているが、菌糸瓶のマットは菌糸瓶のマット、発酵マットは発酵マットで別々に取っておいたほうがいい。このときの注意点はマットを乾燥させないことと、日光に当てないことだ。
 マットが集まったら作成に入る。まず集めたマットを確認しよう。マットは色が薄いものから黒くなったものまで色々な状態になっているはずだ。マットによっては線虫やコバエが湧いているものもあるだずだ。もしコバエや線虫がマットに発生していたら、そのマットの状態を良く見てもらいたい。マットは粒子が細かく、さらさらの状態になっているはずだ。テナガコガネが好む状態のマットとはその状態のマットだ。残ったマットもその状態にするために最初はマットを細かくする。細かくするためにミキサーを使ってもいいが、マットは乾燥させずにそのままの水分量でミキサーにかける。ミキサーを使用しない場合はすり鉢とすりこぎなどを使っても良い。クワガタが食べたマットはかなり腐朽が進んでいて、簡単に細かくできるようになっているはずだ。集めたマットに大きな塊が残ってなければそのままの状態でもかまわない。マットが細かくなったらマットを良くまぜあわせ、衣装ケースなどに入れる。この時に乾燥しているようだったら水を加える。ケースは夏場ならば日陰の野外に、冬場の温度が低いときには室内の暖かい場所に置く。日陰に置くのは小型の生物により安定した状態に分解させるためで、線虫やコバエが発生していても全く問題ない。むしろコバエなどは良い状態に分解してくれるため、コバエが発生したマットがあれば混ぜてやってもかまわない。夏場に日向においてしまうとこのような小型の生物が死んでしまうため、絶対に日向においてはいけない。
 その後は週に一回くらいマットを確認し、軽く攪拌しておく。水分が少なくなっているようだったら加水して水分調整を行う。水分量は全期間で手で固く握って固まりが残る程度として、水分がにじみ出したり乾いて固まりがばらけるような状態にはしない方が良い。攪拌した後のマットは押し固めず、なるべく多くの空気が残るようにしておく。その状態で1月から3月経つと安定したいい状態になっている。菌糸瓶のマットを集めた場合は元のマットに生木のフレークを使っているため、もう少し時間がかかる。
 完成したマットの状態は、粒子の大きさは作成時の処理によって様々な大きさになっていると思うが、うまく分解されているマットは大きな木片は残っていないはずだ。木片があっても指で簡単につぶせる状態になっている。色はこげ茶色で赤みを帯びているはずだ。決してカブト用マットのように黒いマットにはならない。野外で見る赤枯れの材と腐葉土の色の中間のような色になる。
 クワガタに使用するマットは発酵マット、菌糸瓶ともに有機物が添加されている。発酵マットは有機物を栄養源として微生物が分解し、菌糸瓶は有機質を栄養分として菌糸が伸長する。クワガタのエサとして使用する頃には、添加した有機質はほとんど残っていないが、マットが分解されてクワガタに吸収しやすい状態となっている。クワガタが食べたマットはクワガタの幼虫の腸内にいる微生物がマット内でも繁殖して、安定した状態になっている。このマットを数ヶ月置いておくことにより大木中のフレークと同じ状態の微生物がマット中で繁殖し安定したマットを作ることができる。
 作成したマットは産卵用のマットとして使用する前に、コバエや線虫を駆除する必要がある。また、コナダニなどを捕食する大型の肉食性のダニが繁殖している場合があり、卵が捕食されてしまう可能性がある。使用前の害虫の駆除は簡単で、厚手のビニール袋などにマットを入れ、中に使い捨てのカイロを数個入れて袋を密閉するだけだ。そのまま一週間ほど置いておけばダニ類やコバエ、線虫は酸欠で死亡する。菌糸やバクテリアは酸欠になっても短期間ならば休眠するだけで死亡することはない。
 こうして作成したマットで産卵させた場合はほとんどの卵が孵化し、採卵時に傷つけたりしなければ孵化率は100%近い。また、幼虫飼育が難しいといわれているマルバネクワガタやネブトクワガタの一部にも応用ができる。マルバネクワガタに使用する場合はちゃんとミキサーにかけて粒子を細かくする必要があるが、初令の食いつきも良く成長も良い。
 テナガコガネの幼虫は孵化してしまえばカブト用マットで飼育ができるため、産卵時のみこのマットを作成して使用すればいい。クワガタの飼育をしていないとマットの入手が難しいかもしれないが、テナガコガネを産卵させても孵化しなかったり、うまく産卵しなかった経験があったらぜひこのマットを試しに作って使ってみていただきたい。決してテナガコガネは産卵が難しい種類ではなくなるはずだ。
 この方法で作成したマットは、テナガコガネ全般、ネブトクワガタ、マルバネクワガタなどの産卵、幼虫の成長が難しい種に適合する。また、外国産のカブトで産卵したけれど孵化しなかったという種にも適合するはずだ。一度お試しください。



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